このD1のオーナー、実は新車時から所有しているとのことでこの車体への思い入れも強い。今回PAMSに入庫するに至るまではやはり色々なショップでフレームやエンジンに手を入れながら今まで乗ってきたとのこと。最後にエンジンに手を入れてから何年も経過しているが、ここのところ目に見えて調子がおかしいと感じる事が多くなりエンジンを中心にリフレッシュしながら同時に以前からやってみたかった事を取り入れる形でメニューを組み立て作業に取りかかった。

●フレームには補強が見受けられるがピボット上部の補強は左側のみに入っており、右側には入っていない。これではシンメトリックな剛性バランスが取れない。聞くとRマスターが干渉するためつけられないといわれたとのこと。無理に補強を施すのであれば、逆に入れない方が車体のバランス的にはいい。STDフレームでもきっちりセンターが出ていればある程度の速度でも何も問題なく走ってくれる。

●以前にご自分で取付けられたDYNA2000エンデュランスKit。警報機等の併用もありマウントをご自分で工夫されてつけてある。この辺は永年付き合っているオーナーならでは? ●フレームセンターから見るため外装や電装周辺をばらしていく。
●エンジンOHの為、車体から降ろした状態。 ●カムカバーをあけたところ。ハイカムを組んであると聞いていたがカムはSTD。
●D1のシリンダーではなく1015ccのシリンダーで73φまでボアアウトしてある。
●前回オーバーホール時の詳細は分からないのでアイドラー関係を交換したかは定かではないが、この消耗度からすると随分使われているようだ。ベアリングは外れており、ゴムの部分はそぎ落ちてしまっている。 ●こちらのテンショナーローラーもほとんど原型を止めていない。
●アイドラーがばらけた状態で走行し続けた為、シリンダー側面を削りながら回っていた跡。当然削れた物はエンジン内を巡る。 ●バルブのカーボンデポジットとオイル下がりの兆候が見られる。
●同じくオイル下がりの兆候が見られるインテークバルブ。当たり面に付く赤い部分はガソリンです。
●燃焼室、バルブシートのバルブ当たり面が結構広がってしまっているのが分かる。カーボン等が挟まったりと決して奇麗に当たっているとはいえない。当たり面は広すぎても狭すぎてもよろしくない。 ●全てのバルブを抜いたところで、カムを再度組み付け、慴動を確認する。正常であれば指で押す程度でスルスル回るのだが、相当な力を込めても動かない状態。これでは折角組んでもかなりのフリクションになってしまうのでカムライン修正作業が必要だ。過去に何らかの理由でシリンダーヘッドと一対でなければいけないカムホルダーを変えられていたり、組付け方でカムシャフトを歪ませていたりするとこういった状態になることが多い。
●こちらも不調にさせる原因の一つインシュレーターを止めるボルトが手で回る程緩んでいた。二次エアーを吸ってしまう要因。キャブレター調整等をしても今ひとつ調子が出ない原因だったりする事が多い。 ●シリンダーを抜いているところ。長年の走行によってスタッドボルト廻り等に溜まった砂等がクランクケース内に落ちないよう注意を払う。
●73mmピストン ●ピストンスカートのスラップ跡。クリアランス等に問題があると通常よりも強く跡を残す。
●ピストンの寸法を測定。各シリンダーとのクリアランスを測定する。 ●以前に交換されたと思われるGPZ系のセルモーター。
●既に交換されていたクランクはKZクランク。Z系組み立て式クランクシャフトの中では最も重いため一般的には敬遠されがちだが逆にその重たさが功をなし、しっとりした回転感覚とトルクを伴った回転上昇が見込めるためPAMSでは結構お気に入り。特にボアアップ等でピストン径が拡大された場合は相性がいい。 ●クラッチバスケットは手を付けられておらず、やはりスプリングは消耗し、テンションが弱くなっている状態。エンジンの中では唯一駆動系で発生する衝撃を緩衝する役目を果たすため重要な場所だ。腰下OHを施してもわりと手を入れられていない物が多いがPAMSでは定番と言っていい程必ずリビルトを施す。
●今回トランスミッションも完全分解しOHする。やはり痛みやすい2速、5速ギアのドック部分に消耗が見られたためこれも交換。 ●クランクセンターの測定。この状態でコンロッドのサイドスラストクリアランスも測定する。
●フレームのセンターを出し、バランスを考慮し、補強を付け替えたり、Z1用サイドカバーをマウントできるようにステーを移動させたりと手を施し、更にパウダーコートを掛けて仕上げた。
●オーリンズのフルアジャスタブルショックユニット。長年の使用によりシャフト自体の損傷が激しく、シール等を痛め、オイルが漏れてしまっている状態、シャフト交換とともにリビルトすることに。
●ステム廻りやバッテリーケース廻りにもパウダコートを施し組み上げていく、サスは仮の物を使用し、セットアップしていく。
●ブラスト後ペイントされたアッパーケース。過去にガスケットを剥がすとき等に付いた跡で荒れていた為、面研を施した後、組つけられたしシリンダースタッドボルト。全てのボルト穴にタップを通し、オイルラインともに完全に洗浄され、腰下を組み付ける準備の整ったケース。
●芯が出されたクランクやOHを終えたトランスミッション、リビルト済のバスケット等が組込まれていく。
●アッパーケース同様ボルト穴のタップ切り、洗浄、塗装等が施されたロアケースが閉められたところ。全て動きを確認しながらの作業。
●完全に閉まり、逆さまからひっくり返された腰下。 ●交換されたベアリングが顔を出す。
●車体に腰下を仮マウントし、腰上を組み付ける準備をしながら、周辺の組み付け作業も進めていく。
●組み付け準備の整ったシリンダーヘッドと使用するパーツ。慴動抵抗の強かったカムラインもライン修正作業を施しスルスル回る状態に戻った。
●シリンダー、シリンダーヘッドと組み付け、今回は間違いなくウェブカムST1(ハイカム)を組み付けた。アジャスタブルカムスプロケットを使用し適正なバルブタイミングを設定。
●エンジンカバー類もバフ研磨を施し内外ともにリフレッシュされたエンジン。まるで新車のような絵となった。
●シャフトも新品に交換され、完全にリビルトされたRサス。オイルが抜けてた状態から比べると当たり前だが体感的にも激変するはず。
●新車時から共にしているオーナーが迎えに来店。これからも蘇った愛車と共に過ごす時間を想いっきり楽しんでもらいたい。この先もきっと何十年という時間を一緒に過ごして行かれるのだろう。