●今回のZ1は某店にて二度に渡りオーバーホールを施されたもののひどいオイル漏れ、オイル消費と白煙、異音等にも悩まされ三度目の正直でこれが最後のオーバーホールにされたいとの事になり入庫となりました。
●エンジン分解の前に状態を把握しておく為の計測。コンプレッション値は正常、リークダウンもほぼ正常値。
●ヘッドカバーを外してみる。するとまず目に飛び込んできたのはトップアイドラーを固定するボルトが緩み抜け始めていた箇所を発見。
●カムシャフトを外してみる。新品に交換して間もないはずのカムメタルも既にご覧のような状態に。オイル潤滑に問題があったのか、またはカムラインに問題がある可能性がある。また砂等の異物を噛み込んだ形跡も見受けられる。
●インテーク、エキゾースト共に取り外された状態。
●IN,EX共にリフターの焼が激しい。
●シリンダーヘッドを降ろす。激しくオイルが侵入していた事を物語る燃焼室内。
●負圧タイプキャブ用のインシュレエーターはポート入り口部に大きく逆段差を発生させてしまっている。良く見るとバルブガイド先端からオイルが滴っているのが分るだろうか。
●社外品のステムシールと思われるが走行から既に数百キロで硬化が始まっている。
●インテークバルブ。やはり同じようにオイル下がりによるシミ上の焼が発生している。触ってみてもガソリンではなく明らかにオイルの付着と分った。 ●リフターホール内にも砂のような成分を含むスラッジが溜まっていた。ブラスト時の砂だろうか?
●レーシングタイプと呼ばれるアイドラーギアが使用されている。完全にリジット構造で一切のダンパー機能をもたない。また本来存在するはずのシャフト固定用のダンパーラバーが入っていなかった。そのためアイドラーが上下に遊んだ形跡があったが走行距離が短かったため致命的なダメージには及んでいない。
●各ピストンを様々な方向から。これらも多量のオイル侵入を物語っている。ひどいところではリセス部分、スキッシュバンド部にオイルが滞留してしまっている。あまりにもオイル侵入が激しい場合にはカーボン生成にも至らない場合がある。
●取り外されたピストン。スカート部を中心に全周に渡り深い縦傷が発生している。のちに計測し分った事だが本来のクリアランスに対して以上に狭い設定となっていた。
●同じくシリンダーライナー内壁側にも深い傷が発生している。
●セコンドリングが画像では分りにくいが、上下反対に組み付けられていた。これでは掻き落とすはずのオイルを燃焼室側へ掻き上げる方向へと作用するはずだ。オイル消費の大きな原因の一つだった可能性が高い。
●オイルクーラーブロック取出し口に使用するOリング。本来のサイズではないものが無理矢理使われていた為この部分からもオイル漏れを併発していた。
●トランスミッションカバーを固定するボルトが一カ所欠落していた。チェックしてみるとネジ山自体が崩れており修復せずにそのままにしておいた可能性が高い。
●強化タイプのクラッチキットが組込まれていた。クラッチレバーのオペレーションが異常に重たかったのはこのキットが原因。1015ccまでボアアウトされていたが、単純にこの程度の排気量アップだけであれば強化クラッチ等組まなくてもSTDで滑ってしまう事はない。
●走行距離の割には異常なまでのスラッジがオイルパンに溜まっていた。 ●オイルフィルター室を仕切る大切なOリングが入っていない!これではオイルフィルター室にかかった油圧がオイルパン側に逃げていた可能性が高い。
●リベットとボルト止めにて無理矢理取付けられたフラップ。加速時のオイルの偏りを防止するためだとは分るがなぜかそのフラップは既に消失していた。
●以前に異物でも噛み込んだのかクランクケース内の破損部分。実用上は問題は出ないのでこのまま手は付けない。
●スラストワッシャーを入れ忘れた状態にて組まれたトランスミッション。
●以前にアウトプットシャフトをサポートするベアリング周辺にてなにかトラブルが起きたような形跡が残っていた。
●本来Z1の場合ほぼ常温で0クリアランスにて引き上げれば手でもスッと抜けるベアリングがなぜか固着して抜けてこない為プーラーにて引き抜く。 ●比較してみると純正とは異なるベアリングが使用されいた。ベアリングの玉数も異なる。
●本来クリップ上部に位置するはずのスラストワッシャーがクリップ下に入れられていた。
●シャフトに組込むギア位置はオイルホールと合わせなければ行けないがこれもずれた状態で組まれていた。
●ドッグ部の痛みが激しいためこれ以上損傷が進むとギア抜け等のトラブルに見舞われる可能性が高いため迷わず良品へ交換。
●ギアもメタルも見事なまでにオイル穴がずれた状態で組まれている。
●全て分解してまずは正しく組み直す。
●なぜかシフトフォークが大きく削られている。以前にギアの組み替え等により干渉でも発生したのだろうか?
●ロックワッシャー自体が反対に組み付けられている。これではロックの意味がない。
●以前にギア歯の干渉した跡がある。
●全て本来の正しい組付けに。
●アウトプットシャフトベアリングの収まり代とセッティングリング溝にダメージが及んでいなかった為助かったクランクケース。以前にどんなトラブルが起きたのだろうか?前回、前々回の更に以前に発生したものと思われるが、今回みたトランスミッションの組み方では、またいつトラブルを起こしてもおかしくはない状態だった。
●入庫時、キックペダル自体をタイラップで固定されていた。聞いたところペダル自体がふらふらと固定されず使えない状態だった。原因は前回オーバーホール時に分解されたと思われるキックシャフトのギアとラチェットとの合わせ位置がずれたまま組まれていた為と判明。
●クランクケースを閉める為の準備。
●組み直されたトランスミッションと芯出しの済んだクランクシャフトをアッパーケースにセットする。
●仮組されたトランスミッションの動作確認を行う。
●上下ケースの勘合。傷の多かったケースデッキ面も修正面研が入る。
●純正新品のシリンダースタッドボルトが打ち込まれる。
●コンロッドスモールエンドには多少の傷が見られたがラッピングにて処理。
●元々70mmだったピストンは今回さらに1mmオーバーサイズとし、1045ccに。ワイセコ鍛造ピストンを使用。
●ピストンリングの合い口隙間のチェック。
●エッジ取り作業、ピストンリング組み付けが終わったピストンをセット。
●シリンダーをインストールする。以前ガスケット剥がし時に出来たものかシリンダーブロック上下面にもガリ傷が多数あった。一度スリーブを抜き下面を面研、その後サイドスリーブを入れ上面デッキ修正面研を行う。シリンダーボーリング&ホーニングはプラトー仕様でフィニッシュ。クリアランスは5/100に指定。
●ガスケット等を乗せヘッド搭載の準備が完了。
●シートカット摺り合わせが終了したシリンダーヘッド。バルブガイドはPamsオリジナルFCガイドを使用。シートカットは高効率なハイフローカット。
●バルブ&バルブスプリングの組み付け用意。
●ヘッドを搭載しようやくエンジンらしい姿に。
●フリクションプレートは純正を使用。向って左が純正。右が組込まれていた強化パーツ。
●ふらふらして使用出来なかったキックペダルも正しいシャフトの組み付けにより復活。
●砂等の混ざったスラッジが多く発見されたため入念に洗浄を繰り返したシリンダーヘッド。カムメタルはもちろん純正新品に交換。カムシャフトはウェブST1をチョイス。
●トップアイドラー&ダンパーラバーも全て純正新品に。
●組み上がったエンジンを車体に搭載したところ。
●オイルパンの装着準備。当たり前ですが今度はOリング入りです。
●今回主に交換された部品群。
●キャブレターはCVKからCRスペシャルのブラックボディへ換装で精悍な印象です。
●二度のオーバーホールに裏切られるような形になり、リビルト作業そのものに対して疑心暗鬼になりかけていたオーナー。今度が最後で三度目の正直と言われ期待を裏切る事の出来ない我々も作業にはいつもに増して慎重に望みました。現在は快調に走り続けており本来のZを楽しんでもらえるようになりました。今後は満足に今まで走れなかった分、思い切り乗り倒してもらいたいと思います。三度目のオーバーホールに我々Pamsを選んで頂き本当に有り難うございました。