●走行中突然キックシャフトが足に跳ねあたり(相当痛かったらしい)それと同時に後輪がロックしたので見て欲しいと言うご連絡を頂き、陸送にて入庫。どこがロックしているのかトラブルシュートするのにたいした時間はいらなかった。
●スプロケットカバーを外すとアウトプットシャフト部分のオイルシールが裂けていて外れかけていた。
そしてトランスミッションカバーを外してみると.......
●なんと、アウトプットシャフトのベアリングが崩壊し内部のボールベアリングが全てパチンコ玉のように内部で散乱していた。
以前にも何度か同じトラブルで入庫したものがあるが、原因として考えられるのが、ドライブスプロケットの緩んだ状態で走行していたという事、緩んだ状態で走行することより、サイドスラストの遊びがベアリグに衝撃を与え続け、金属疲労を招き結果的にベアリング本体を崩壊に追い込んだものと推測出来ます。ちなみに←左画像にあるケーシング(ボールベアリング同士の適切な感覚を保つ為のサポート)が外れてしまったものはかなりの頻度で発見されます。

●鋼鉄で出来ているベアリングが崩壊する衝撃は相当なもので他へのダメージが心配。
クランクケース等への損傷が大きいと交換もやむおえない場合もある。
各部ダメージを確認しながら慎重に分解していく。

●崩壊時に削られたアルミ片等が散乱している...
●ボールが全て飛び出して、取れてしまったベアリグのアウターレース。
●ご覧のようにベアリングのインナーも破断。通常であれば手でも抜けてくるはずだが熱と歪みにより溶着し専用のベアリングプーラーにて少しずつ引き抜いた。
キックシャフトのリターンスプリングも衝撃で延びてしまっている。
何気ない部品だがこれも欠品部品。
●気になっていたケースの損傷。
ベアリングの崩壊によりセンタリングサポートを失ったアウトプットシャフトは当然の如く前後左右にと動く事となり各ギアにより削られた跡がところどころ見られる。
Cケースの新品が出れば交換を進めたいところだが、幸いな事にセッティングリング溝等へのダメージや衝撃によるクラック等も見られず、歪みも許容範囲と、見た目の激しさにしてはケースのダメージはぎりぎりセーフで使用可と判断した。
●同じくダメージを受けていたキックシャフト廻りも生傷はあるが機能に支障のある程のものはなかった。
キックシャフトのストッパーは衝撃で曲がってしまっている。
●上段左が本来の姿、右が崩壊したベアリングのインナーレース。
画像左はインナーレース部をアップにて見たものだが既に虫食い状態となり内部で暴れた形跡が見受けられる。
●分解したアウトプットシャフトにもベアリングが崩壊したことにより熱とその衝撃でベアリングインナー部と溶着してしまっている。
●スラストワッシャーもこの通り。
●アウトプットシャフトの交換は勿論の事数カ所に渡りダメージの見られた各ギアもストックより良品に交換した。
●トランスミッションオーバーホール中の画像。アウトプットシャフトは良品へと交換されたがインプットシャフトにはダメージは見受けられずそのままキャリーオーバーとなった。
●結構なスピードにて突然の後輪ロックに見舞われたので為念のためクランクシャフトも位相ズレや歪み等チェックを行う。位相ズレは無しセンターのフレは出ていたが、これは今回のトラブルによっておきたものか否かは不明。クランクセンターも2/100以内に納めた。その他サイドスラスト等は全て許容範囲内。
●ベアリング崩壊によりセンタリング機能を失ったアウトプットシャフトギアによって弾かれたキックシャフギアにてストッパーをも左画像のような状態に。
●ベアリング崩壊によって暴れ回る事となったアウトプットシャフトギア。ベアリング横に位置する1速ギアによりCケース内もかなり削られた跡があったが修正しこのような状態までに。セッティングリング溝も若干衝撃によりエッジが立った状態だったが修正し使用。
●各部修正が施され洗浄も済まされたCアッパーケースをエンジンスタンドにセット。
●既にOHアッセンブリーが終了したトランスミッション及びクラッチハブをセット。更に入念なクリアランス確認調整を行う。
●アウトプットシャフト、ベアリングもこの通りに。
●Cロアケースとアッパーケースを締結し、エンジンスタンド上にて上下の入れ替え。Cアッパーケースデッキ面研も施した。
●純正シリンダースタッドボルトに全て交換。
●ピストンも全て純正OS。
●PAMSオリジナル対策バルブガイドに打ち替え、ハイフロシートカットを施す。摺り合わせを施しアタリも良好。バルブも全て純正新品バルブを使用。最小値面研を施したヘッドが美しい。
●バルブを組込みアッセンブリー状態となったシリンダーヘッド。
●プラトー加工にて仕上げられたシリンダー内壁。フリクションロスの低減と耐久性の両立を狙った仕様だ。シリンダーブロック上下面に歪みと大きな傷が目立ったため一度スリーブを抜き上面下面共に最小値面研を施し組み付け精度を上げた。
●シリンダーをインストールする。
●カムチェーンライン周辺に使用するパーツはアイドラーギアも含め全て純正部品とする。
●この状態にてハンドクランキングを行い慴動状態を確認する。この段階でもプラトーフィニッシュの効果は充分に感じ取れるもの。
●ヘッドを搭載しカムシャフトの装着。スタンダードカムシャフトのキャリーオーバーとなるがご覧のように新品のような状態まで仕上げてある。
●カムホルダーに装着したカムメタルも全て純正部品。 ●各部位置決めの要となるダウエルピンは無条件にて新品に交換が前提。
●トップアイドラーダンパーの装着。カムチェーンライン上にはこのように数カ所に渡りラバーマウントとなる箇所があるが、最近はそれを廃しリジット化するチューナーも増えているようだが、PAMSではあくまでも耐久性を重視し純正ダンパーを各部に使用。 ●カムチェーンテンショナーはマニュアルタイプ。分解清掃にて組み付けシャフト部に付いていた細かな傷等は研磨にて取り除いてあります。
●バルタイの確認後タペットクリアランス調整を行います。
●クラッチハブはダンパースプリングの受け部分の状態が良好だったため分解そしてダンパースプリングの交換を行いリビルトとした。
●今回最も問題となっていた部分はこのように綺麗な状態に復活です。シフトドラムの回転を司るギアチェンジレバーを装着しトランスミッションカバーを閉める。もちろん全てのシール類は純正新品に交換済。
●ようやくASSY状態となり車体搭載を待つエンジン。
●折角なのでエンジン搭載後では手の入らない箇所も綺麗にしておきましょう。
●無事車体へ搭載となったエンジン。完成の日も近い。
●ここでまた問題発生。ステーターコイルの抵抗値をチェックしてみると見事にリークが発生していた。ご覧のようにところどころに焼も発生し、以前にレクティファイアー機能に問題があった可能性がある。
●PAMSストックにあった良品中古のステーターコイルに交換。同時にオイル漏れ対策も施す。
●点火系はSPII PAMS Ver.に交換。
●走らせていなかった時間が長くなったため念のため分解洗浄を施すSTDキャブレター。がしかし、各部消耗が激しく今ひとつ思うように性能が引き出せない。オーナーさんと話あった末に、結局新品CRキャブレターへと換装となった。
●新たにCR33φが装着された。オーナーさんが懸念していた低速域での扱いにくさ等みじんもなく千回転を切る低回転域で静々とアイドリングを打つ。
●試乗チェックを重ねいよいよオーナーさんへ引渡の日。今まで様々な不安を抱えながら乗っていたKZ1000。これからは安心し、純粋に乗る事だけを楽しんで頂きたいと思います。今回は有り難うございました。